不動産投資のための建築物

最近、デベロッパーの仕事をさせてもらっている。これまでは個人の建築主や住宅メーカーの商品開発をやってきたので、不動産の仕事は初めての経験なのだが、これがかなり勉強になっている。これまで、町になんでこんなつまらない建物が多いか、ほとんど理解できていなかったかもしれない。それらを設計した者の能力がないか、金儲けのために手を抜いている、位にしか考えていなかった。しかし、いざ自分が不動産の仕事に関わって見て、その理由がやっと理解できるようになってきた。設計者個人の能力ややる気、気持ちの問題ではなく、構造的な仕組みがそんな建物を作り出している。端的に言って、不動産の仕事では、設計・建設に掛けられる時間がほとんどない。たとえ設計事務所が赤字を覚悟して、デザインに時間と手間をかけたいと考えたとしても、そんな個人の思いは許されない。大抵、投資目的の建築物は、建設のために銀行から融資を受ける。融資を受ければ、毎月ものすごい額の利子が発生することになる。もちろん、投資目的の建物であれば、家賃の収入から返済額を差し引いても、ある程度の利益がでるように考えられている。しかし、建物が完成するまでは、家賃収入はない。その期間、ただ巨額の融資に対する利子だけが毎日増えていくことになる。そして、その利子をすこしでも少なくしようとすれば、一日でも早く建物を完成するしかなくなる。つまりは、銀行から借金をして、家賃収入でそれを返済していく、というビジネスのモデルで建物が作られる以上、切り詰められた時間のなかでしか、建物を作ることはできない。以前、建築家の磯崎新は、すこし軽蔑的に、「世の中の95%は、凡庸なビルディング「建設物」である。」と言っていたが、まさに95%の建物は、このような仕組みによって建設されているわけである。このような条件の中で、設計者は何が出来るのか、あるいは出来ないのか。今後、この仕事を行いながら、自分なりに考えてみたいと思っている。

  1. それと、中古建築物の評価方法が大問題です。最近、ずっといわれ続けていますが、日本だと減価償却されて、建物の構造にもよりますが、30-50年ぐらいで、建築物(うわもの)の価値はゼロになります。そんなんだったら、質が良く、デザインが良い物を作ろう、などという気がおきません。例えば、ある家は農家をやってきていて、離農したので、余った土地に何か建てようと思いました。しかし、そのために建物を借金して造る。すると例えば、安っぽいレオパレスを建てて、借金して捻出した建築費用を家賃収入で回収できた頃には、30年後で、結局、維持費などもいれれば、赤字になると言う。レオパレスでこうですからね! どうして、デザインもよく断熱などもいい建物を建てようと思えますか?それに引き換え、欧米、特に欧州では、中古建物の価値は、それと同じ物を今現在作り直したとしていくらかかるか、ではかると言います。それなら、今お金をかけて立派な物を作っておけば、将来に渡って、大きな資産価値を残せることになります。また、イタリアなど特にそうですが、歴史的建造物は外側は絶対変えては行けない、また、使える色も三色ぐらいに規制されている、など・・・構造的な規制もたくさんありますね。では、日本はなぜこうしないのか?簡単です、何度も建て直し、土地を転売しまくって、儲け続けようとするヤクザな連中がいるからです。この既得権益はとても大きく、また政治家・官僚にも利益分配されていて、変えるのはとてもとても、難しいです。

  2. コメントありがとうございます。中古建築の評価について、詳しく知らないのですが、単純に既得権益者だけに原因があるわけではなく、日本人の建物に対する観念にも関係しているという気がしています。一般に、欧米だと、古い建物ほど価値があると考えられているようですが、日本だと、不動産情報には「築○○年」と記されているとおり、新しければ新しいほど人気があり、高い家賃を取ることが出来ます。そして、多分30年-50年経つと、人気がほとんどなくなって、いわゆる「不動産価値なし」ということになるのではないでしょうか。ただ、古い建物は人気がないだけで、見方さえ変えれば、いい部分はたくさんあるのだから、「不動産価値なし」の建物を安く買って自分で利用するのはとても賢いお金の使い方だと思います。僕は、新築の建物を設計するのが仕事ですが、どちかというと、自分が買って住むなら、中古の「不動産価値0」の建物の方ですね。(笑)そもそも、日本の人口は減少傾向にあるわけですから、物理的に建物は余っているはずで、これからその傾向は強くなるでしょう。とすれば、建物はまだ十分使えるにもかかわらず、「不動産価値0」である建物もどんどん増えてくるはずです。そういう意味では、建物の生存競争も激しくなってくるし、建物にもなにかしらの付加価値がないと生き残れない。そこで、付加価値になるのが、デザインや材料などのクオリティの部分になってくるといいのですが、その辺りも、消費者の価値観に影響されます。

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