「現代日本の建築」2

当たり前のことですが、建築は地面に固定される。実物を見るためには、その土地に足を運ばなくてはならない。とても手間がかかる。インターネットでクリックすれば、簡単に手に入れることの出来る情報とは、真逆の不便な情報だ。なので、建築に関する情報は、実物の建築物ではなく、写真や図面によって伝達される機会が多くなり、建築関する情報の流通にとって、書籍や雑誌は、重要な存在になる。また、本は、建築に権威を与える。美術品であれば、美術館に展示されることによって、権威が与えられるが、建築は美術館に展示できない。町には、無数の建築物が建っているが、その無数の普通の「建築物」と、芸術としての「建築」とを、本は区分けする働きがある。つまり、建築物は、本に掲載されたとき、芸術としての「建築」として認識されるようになる。例えば、大学の建築学科の教授や講師の募集条件をみると、手掛けた作品が建築雑誌に掲載されることが必要とされていることが多い。実は、大学などのアカデミックな世界ですら、建築ジャーナリズムの情報を基礎に作られている部分がある。そんな芸術としての「建築」を作り出す制度を利用して、お金儲けをしようとしたのが、この「現代日本の建築」なのだろう。一作品の掲載で、15万円の出品料が手に入るとすれば、100作品分で、1500万円もの売上げを出すことができる。一冊15,750円もするこの本が、どの程度売れるのか。それほど多くの発行部数はないと思えるのだが、この本に高い出品料も、自分の作品を芸術に仕立て上げるためには、十分支払う価値がある、と多くの建築家が考えているのだろう。しかし、芸術としての「建築」が、こんな詐欺まがいの仕組みで作り出されていいはずがない。そのうちに、こんな制度のうえに作られている芸術としての「建築」にも、”恐慌”が来るのではないだろうか。

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