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高安秀樹著『経済物理学の発見』

高安秀樹著『経済物理学の発見』

本書は、タイトルの通り、まさに発見されつつある経済物理学について、紹介するものである。

一般に物理学と言えば物質の究極的な性質について扱う学問だと考えられているが、物理学の英訳語physicsとは、狭義の物質を扱う物理学だけではなく、科学そのもの意味する言葉でもある。
そして今や、物質だけに囚われることなく様々な現象が、物理学の研究対象になっているのだという。
そのような潮流にあって、経済を分析しようとする物理学が、経済物理学である。

これまでの経済学では、需要と供給のバランスによって価格が決定されるという均衡理論が信じられてきた。
つまり、供給に対して需要が多ければ価格は上がり、少なければ下がる、というものだ。
中学校の社会科の授業で教えられ、日々のニュースでも、この考え方に沿って、株や為替の値動きが説明されている。
ところが、著者は、あらゆる価格変動のデータを探してみてもその理論に当てはまる実例を見つけられなかったという。

一方、経済物理学では、価格変動を、商品の取引が潜在的にもつ性質が否応なく生み出す自律的な運動だと考える。
コンピューター上で、プログラムした規則に従って売買するディーラーで構成される人工的な市場を設定し、シミュレートした結果、次のような考えを導き出す。

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書評:ベノア・B・マンデルブロ+リチャード・L・ハドソン著『禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン』

本書の意義は、巻末の監訳者の高安秀樹氏による「訳者の言葉」にまとめられていると思う。

本書は、あらゆる科学の分野で応用されているフラクタルという基本的な概念を生み出した科学の世界の巨人、マンデルブロが、金融市場の科学は未完成の段階であり、過信すると極めて危険であることを堂々と主張しています。自然科学者としてのマンデルブロをご存知の読者は、なぜ彼が経済学者のように金融市場についてコメントするのか、といぶかしく思われるかもしれません。しかし、本書の中でも触れられているように、フラクタルという概念そのものが金融市場の研究から生まれたものであり、彼自身一貫して思索の根底には経済現象があったのです。訳者ら(高安美佐子、高安秀樹)は、1988年にイェール大学に在籍していたマンデルブロの研究室に一年ほど滞在しました。ある日、一緒に食事をしているときに、「先生は、数学者、物理学者、生物学者、そして、経済学者の四つの顔をお持ちですが、もし、一つだけ選ぶとしたら、何を選ばれますか?」という質問をしたところ、きっぱりと「経済学者」という返事を頂いたことを思い出します。

(中略)

マンデルブロの先駆的な研究がけん引する形で、物理学の視点から経済現象を研究する経済物理学という新しい学問分野が立ち上がっています。これは、金融市場などの詳細な経済データをあたかも電波望遠鏡がとらえた宇宙からの時系列信号などと同じように、客観的な視点に立って分析し、その特徴から経験的な法則性をまず確立し、さらには背後に潜む現象を解明しようという研究です。地球物理学や生物物理学などと比べればまだまだ小さな規模ではありますが、経済物理学という協会量御行の研究ジャンルが物理学会の中にも誕生しています。

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柄谷行人著『憲法の無意識』(岩波書店)


理念が、表層的なもの、実用性のない単なる綺麗事、などとして片づけられるものではなく、政治経済等の社会構成に影響を受けつつ、無意識から不可避的に生み出されてくるものであることを、日本の憲法9条を題材に分析している。

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at プラス01

at+太田出版から発行されてきた『at』が、編集体制を変更し、『at プラス』として、新創刊された。これまで連載されてきた上野千鶴子の「ケアの社会学」が最終回となったことや、岡崎乾二郎さんの連載が始まったこと、あとサブタイトルが「思想と活動」になったことなど、いくつかの変化があったのだが、一番面白かったのは、特集記事だろうか。今回の「プラス」の創刊号は、特集を「資本主義の限界と経済学の限界」として、岩井克人や水野和夫へのインタビュー載せている。岩井克人の文章は、柄谷行人との対談「終わりなき世界」が出版されたころ、読んでから、疎遠になっていた。そのため、今回のインタビューは、久しぶりだったが、インタビューを読む限り、当時の「脱構築主義」のスタンスは、あまり変わっていない。いまは「脱構築」を批判する立場をとっている柄谷行人とは、だいぶ距離ができてしまったな、という印象。ただ、その分、岩井克人の言葉から、「脱構築主義」の”今日の意味”を、読むことができるかもしれない。 Read more »