建築と料理

ロースはさらに、装飾に反対する戦いは個々の専門分野を越えたものであることを示した。単なる専門家に留まらないところが、ロースの大きな強みのひとつである。彼は、人間の生活の仕方や日常の動作からも装飾を退けようと努力し、現代人がその本質にかなったあり方を獲得するのを手助けしたのである。装飾との戦いが料理の面におよべば、オーストリア料理が付け合せのほうれん草の中にも小麦粉を混ぜ合わせていることに真剣に反対することになる。つまり、生活のあらゆる面で、純粋さということを考えるのである。(フランツ・グリュック「アドルフ・ロースの横顔」ハインリヒ・クルカ編『アドルフ・ロース』P11)

最近、農業や食品に関連したいくつかのプロジェクトに関わり始めた。これまで建築という枠の中で仕事をしてきた自分が、他ジャンルに関わる場合に、どんな役割を果たせるのか、あるいは、プロジェクトそのものがどのような結果に向かうのか、自分自身もまったくわからない。しかし、既存の枠組みがほとんど機能しなくなり始めているこの時代には、”訳のわからないこと”にチャレンジするしか可能性はない。そして、「建築」という専門分野を超えて、料理についても発言をしていた、アドルフ・ロースは非常に重要な建築家/思想家である。既存の枠組みを一度バラバラに壊した上で、その部品から新しいものを作っていこうとするとき、アドルフ・ロースの専門分野を超えた視点はとても参考になる。建築史家の中谷さんが主催するアセテートで準備が進められているロースの著作集の出版も、とても楽しみだ。編集出版組織体アセテート:アドルフ・ロースのページ

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