農業をよりよく知るにはどうしたらよいか。ぼくがおもうに、その接近の仕方には二種類ある。ひとつは、農業を技術という実際的な側面からみるというもの。ふたつめは、農政、つまり農業を農業政策や経済的な観点からみていくというもの。学問的にも、これらふたつは分けられているようだ。ひとつめの農業技術とは、つまりは農作物の作り方のことなのだが、それらをみていくと、農業技術の基本とは、土の作り方のことだということに行き着く。土ができていなければ作物は育たないのだ。それでは、いったい土とは何だろうか。土とは、様々な物質と空気と生物たちが干渉しあって変化しつづけるダイナミックな構造のことだ、ととりあえずは言っておこう。この土の作り方を基本にした農業技術の中身を学問的に切り分けてみると、農業には少なくとも化学、植物学、生物学、微生物学、土壌学、気象学といったように、自然科学の多くの分野が関わっていることを知る。こうした切り口から農業をみると、農業とはまさに総合科学の実践的な分野のことではないかと言いたくなる。日焼けした土色の顔して、泥まみれの農家のオヤジさんたちが、ぶっきらぼうな口調で、そうした科学の専門用語が頻繁に飛び交う会話をするのを耳にしたときは、不意をつかれた驚きとそよ風のごとき清々しさが同時に訪れたかのような(笑)、奇妙な感動をおぼえたものだった。住み込みで農業体験を続けていたとき、実際にこのような場面に何度も出くわした。それがぼくの農業に対するイメージを変えたと言ってもいい。農業がえらく知的でスリリングな世界だったということに気づかされたのだ。そんな魅力的な農業という生産手段が、しかし日本ではなぜ衰退の一途を辿ることになったのか。農家はなぜかくも経済的に恵まれないのか。それを食い止め、事態を好転させ、活性化させるにはどうしたらよいのか。こうしたことを考えるのが、ふたつめの、農政の分野だということになる。けれど、そこでは、他の社会と同様、人々の思惑や欲望が複雑に絡み合っているため、衰退を食い止める解決策を見いだすのは容易なことではなさそうだ。農業や農家を衰退させることを良しとする物の考え方や、それで利益を得る者もいるということだろう。WTO(世界貿易機関)やFTA(自由貿易協定)主導による国際貿易の自由化、規制緩和、民営化。それらの政策によって利益を得る者とそうでない者。あるいは、国内の「生産調整」という名目の下に長年執り行われている米の減反政策。それによって利益を得る者とそうでない者。国家の政策と農家の間で板挟みとなった農協という団体の役割とはなんぞや。etc、etc…。このブログで、農業にまつわるあれこれをメモしていこうとおもう。
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