内部被曝の脅威 ちくま新書


低レベルの放射線は、五感で感じることが出来ない上に、時間を置いて健康被害が発生するために、その原因として特定されづらい性質をもつ。
原子力産業は、その性質を利用し、放射能による被害者を小さく見積もることによって、十分に批判されることなく、推進されてきた面がある。

この本は、原子力が産み出す低線量放射能が、膨大な数の被ばく者とその犠牲者を産み出しているという「内部被ばくの脅威」を、医師によるメカニズムの解説とジャーナリストによる現場のレポートによって、明らかにしている。

福島第一原発の事故によって、低線量の放射線が漏洩し続けており、今後、この低線量による健康被害が大きな社会問題なってくるはずである。
この問題を考えるための基礎知識を得られる。

1950-89年の40年間にアメリカの婦人(白人)の乳がん死亡者が2倍になったことが公表された。その原因の究明を世論から要請された政府は、膨大な統計資料を駆使して調査報告書を作成し、乳がんの増加は「戦後石油産業、化学産業などの発展に伴うえむを得ない現象」と説明した。統計学者のJ.M.グールドは報告書に使われた統計に不審を抱き、全米3053郡(州の下の行政組織日本の郡に同じ)が保有する40年間の乳がん死者数をすべてコンピュータに入力し、増加した郡と横ばいならびに減少した郡を分類、調査した。その結果、1319の郡が増加し、1734の郡が横ばい、又は減少しており、乳がん死者数には明らかに地域差のあることが判明した。

グールドはコンピュータを駆使して、増加している1319郡に共通する増加要因を探求し、それが郡の所在地と原子炉の距離に相関していることを発見した。即ち、原子炉から100マイル以内にある郡では乳がん死者数が明らかに増加し、以遠にある郡では横ばい、または減少していたのである。乳がん死者数の地域差を左右していたのは、軍用、民間用を問わず全米に散在する多数の各種原子炉から排出される低線量放射線だったのである。
(肥田舜太郎/鎌仲ひとみ著『内部被ばくの脅威』p114)

マガジン9条「この人に聞きたい/肥田舜太郎さんに聞いた」
鎌仲ひとみ監督映画:「ミツバチの羽音と地球の回転」

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