階級都市

東京二十三区の間には大きな格差がある。所得、階級構成、学歴、生活保護率など、階級や社会階層に関するあらゆる指標で、豊かな都心四区、相対的に豊かで高学歴の山の手、すべてにおいて豊かさから取り残された下町という、はっきりした序列が見出される。ここから住民の平均寿命や、子供の成績と進学率などにも、深刻な格差が生み出されている。

橋本健二著『階級都市』p249

格差が大きいことは、それ自体で、さまざまな問題を産み出す。これまでも論じてきたように、子供たちを中心に機会の平等が失われ、格差が固定化し、貧困連鎖が生じてしまうことが最大の問題だが、それだけではない。
大きな格差は、それ以外にも様々な社会的損失を産み出す。その最大のものは、人々の健康を損ない、生命を危機にさらすことである。この問題については、近年、英国米国中心に膨大な量の実証研究が積み上げられてきた。
研究をリードしてきた代表的な研究者の一人が、リチャード・ウィルキンソンである。彼によると、これまでの研究から次のような事実が明らかになっている(ウェイルキンソン『各社社会の衝撃』)。経済格差の大きな死亡率の関係を都市別に見ると、不平等な都市ほど死亡率が高くなる。こうした傾向の一部は、格差の大きな都市ほど、健康を害しやすい貧困層が多いことによって説明できるが、原因はそれだけではない。データは、不平等な社会に住めば、どんな所得レベルの人でも死亡率が上がってしまうことを示している。格差が大きくなると、低所得の人々のみならず、平均的なさらには平均以上の所得のある豊かな人々でも死亡率が上昇するのである。
なぜ、こうなるのか。大きな較差があるとき、人々は強い心的ストレスを感じ、健康を害しやすくなる。さらに人々の間に信頼関係が形成されにくくなり、信頼に基づく人間関係も失われていく。すると、人々はお互いに敵意を抱きやすくなり、犯罪が増加し、ストレスはさらに高まる。米国で行われた調査研究によると、所得格差の大きい州ほど殺人発生率が高い傾向があり、所得格差と貧困率の二つの要因で、州による殺人発生率の違いの半分以上が説明できると言う(ウィルキンソン前掲書、カワチ/ケネディ『不平等が健康を損なう』)。

橋本健二著『階級都市』p261

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