実験と理論

実験によって、もののある具体的な性質、あるいは現象間のつらなりが知られたとしても、それだけでは学問とはいえない。いわゆる学問の定義の中に入るには、そういう知識にある体系が組み立てられなければならない。体系が出来て始めてそれが役に立つことになる。
ところで、いろいろ雑多な個々の知識に体系をつけるという場合に、二つのやり方がある。その一つは、こいう知識を整理することである。たとえば、分類するということも、一つの体系を作ることである。事実そういうことも、決して馬鹿にはならないのであって、古典的な動物学や植物学の中で、いわゆる分類学といわれている部門なども、案外役に立っているのである。このごろは、そういう学問があまり流行らないので、何か初歩の学問のように思われている傾向もあるが、実際にはああいう知識が多いに役に立っているのである。
しかしそればかりでは、もちろん今日われわれの言う学問の体系にはならない。今日学問の体系といわれているものは、いろいろな個々の知識を整理するだけではなく、総合したものである。自然現象というものは、複雑ではあるが、連続した融合体である。それをいろいろな方面から見て、いろいろな知識を得る。そういうたくさんの知識を一つの総合した知識に組み立てることが体系を作ることである。ところでそういう体系を作ることによって、何を得るところがあるかというと、それは多いにあるのである。多くの知識をただ寄せ集めたばかりでは、あまり役に立たない。しかし本当にこれを有機的に総合すると、学問の次の展開を促すという非常に大切な役目をすることになる。

中谷宇吉郎著『科学の方法』p159

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